沖田 愛有美Okita Ayumi
Profileプロフィール
1994年岡山県生まれ。現在は石川県金沢市を拠点に、漆をメディウムとした絵画制作を行う。人間と非人間の境界を超え、種々が複雑に絡み合う自然界の様子を描く制作は、「植物-技術-文化」の複数の位相を持ち自然と人間をつなぐ“漆”との共同制作に位置付けられる。絵画や工芸の区分などしばしばメディウムに付与される還元主義的な表現の規範化を回避し、その結節点を探るなかで、人間の活動と不可分な自然環境との相関関係にも関心を広げている。
2018年、金沢美術工芸大学油画専攻卒業。2020年、同学工芸専攻修士課程修了。2024年、同学博士後期課程美術研究領域修了。2016年と2024年に清華大学美術学院(中国・北京)へ交換留学生として派遣。絵画と工芸の領域を行き来し国内外で制作を行う。
最近の主な展示には「洞穴の暗がりに息づくもののために」(北千住BUoY、東京、2024)、「結露する森」(galleria PONTE、石川、2022)、「てのひらを掠めるもの」(金沢市安江金箔工芸館、石川、2022)などがある。第38回瀧富士国際美術賞優秀賞(2017)、公益財団法人クマ財団第2期生採択(2018)。
Statementステイトメント
漆は植物の樹液です。
人の手にかかって器物や道具といった別のからだを得ています。
漆の乾燥には高温多湿な環境が適しており、私は植物を世話するように温湿度を管理します。そして指触乾燥後は何十年もかけ硬化しながら透明度を増してゆきます。ここには呼吸する植物であった頃の姿が垣間見えます。
人間は先史時代から漆を利用してきました。人為を加えて様々なかたちや色や光の反射を与える技術や文化を蓄積しました。それは樹液であった頃の荒々しい姿とは異なるものです。自然と人間の関わりの中で、様々に姿を変えて現れてきた漆は、両者を結ぶ媒介者であったことに気が付きます。
そんな漆が、語りかけるのです。
温湿度の調整を試みても季節や天気の影響が強まれば予想通りの色が得られるわけではなく、研ぎや磨きの生み出す図像も完全に制御することはできません。漆は筆を重ねる度に自らを主張し、私はそれを受け止めます。その反応を読み取り、次の一筆を選択することを繰り返します。
このとき私は自身を取り巻くあらゆる生命や物質の存在を意識せずにはいられません。漆というメディウムを介して、イメージと物質の二重性が強烈に意識に上ります。絵に登場するあらゆるイメージは広がる網のようにどこまでも繋がり、その肉体として世界を構築する“ものそのもの”の感触を手のひらで掴むのです。
制作のなかでは漆を介して自然の息遣いを感じます。
小さな頃に過ごした山野のことを思い出します。岩陰に隠れた動植物や風や水が運ぶ粒子まで、我々と共にある非人間的なものたちを見過ごさないために、その存在に目を向けるために、私は漆との共同制作を続けています。