三枝 愛Mieda Ai

三枝 愛

三枝愛《みんなの畑(部分)》2024年、素材:紙屋川で漉き返した和紙ほか

※画像と出品作品は異なる場合があります

協力・サポート:くらしネット21 京都市楽只児童館 一般社団法人HAPS 禹歩 バンビナートギャラリー

Profileプロフィール

1991年埼玉県生まれ、京都拠点。2018年東京藝術大学大学院美術研究科油画専攻修士課程修了。失いつつあるものや事象との関係を結び直すために、拓本やサイアノタイプ によるフォトグラム、作文、映像、紙漉きや染織など、その都度必要な技術を選び取りながら、留保と転用としての美術を模索している。また、リサーチ・コレクティブ「禹歩」として、美術ライター/編集者の島貫泰介と活動している。

近年の主な活動に、「庭のほつれ|なばに祈る」(ドマコモンズ/大分/2022)、「ARTS CHALLENGE 2022」(愛知芸術文化センター/愛知)。同展では沢山遼賞、竹村京賞をダブル受賞。「ab-sence/ac-ceptance 不在の観測」(岐阜県美術館/岐阜/2021)、「A Step Away From Them 一歩離れて」(ギャラリー無量/富山/2021)、 個展「尺寸の地」(Bambinart Gallery/東京/2021)、「沈黙のカテゴリー | Silent Category」(Creative Center OSAKA/大阪/2021)など。

Statementステイトメント

京都を拠点に活動するアーティスト・三枝愛は、文物の修復・複写技法を転用し、失われつつある、あるいは既に失われてしまった「もの」や「こと」を留めおこうとする試みを作品としてきた。その活動の原点は、埼玉県で原木しいたけを扱う農家に生まれ育った彼女自身の来歴にあり、2011年に起きた東日本大震災にある。

震災直後に起きた福島第一原発の爆発事故で飛散した放射性物質は、三枝の生家で扱ってきた阿武隈山系の原木を被曝させ、それまで営まれてきたしいたけ栽培のエコサイクルを破壊した。被曝しなかった他県の原木を手に入れるなどして一家は数年をかけて新たなサイクルを構築したものの、やはりそれは震災以前とは異なるものだったと三枝は振り返る。たった一つの出来事で、いつまでも続くと思っていた環境はあっけなく変化する。ときに破壊すら伴う不可逆的な状況の変化を、三枝は「ほつれ」と名付け、その変化や快復の可能性をめぐる表現を続けてきた。

近年、三枝は京都市北区の楽只学区の人々とのプロジェクト「紙屋川を漉き返す」に力を入れている。同地域に流れる紙屋川の砂防ダム内にある集落で、平安時代の和紙づくりに基づき、子どもたちや地域住民の協力を得ながら畑の開墾・素材の栽培なども行う同プロジェクトは、使用済みの紙片を水に溶かして繊維に戻し、和紙を再制作する「漉き返し」の技術と、失われつつあるコミュニティのつながりや記憶を重ねることを試みる。住民の高齢化や、行政による介入などによって、複雑な歴史を持つ砂防ダムの集落がかつての賑わいを取り戻すことは難しいだろう。しかしだからこそ、三枝は「留保と転用」の技術・思想に立ち、社会や時代の変化に向き合い続けている。

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